未来のかけらを探して

3章・過ぎた時間と出会いと再会
―32話・森はアットホーム―



―ファブールのチョコボの森―
一行はそれからしばし歩き、ようやく目的の森にたどり着いた。
間近で見る森はとてもうららかな雰囲気で、いかにも開けた明るい森という印象だ。
見るからに、とても環境が良さそうである。
きっとチョコボだけとは言わず、生き物がたくさん住んでいるに違いない。
「もうちょっと奥に行くと、
ぼくがすんでたクエスの群がいるはずなんだけど……。」
仲間のにおいをたどりながら、プーレはきょろきょろと辺りを見回す。
チョコボのにおいはちゃんとするので、たどっていけばきっと着くはずだ。
「くんくん……たしかに奥からにおいがするな。」
獣人だけに、プーレ達のように鼻がいいアルセスも、
風で流れてくるにおいをかいで確かめているようだ。
「どんな群なのかなぁ〜?」
まだにおいしか分からないプーレの仲間に思いをはせて、
エルンはのんきに呟いた。
友達の群なのだから、きっといい群だという想像はついているかもしれないが。
「はやく会いたいネー☆」
「う、うん……でも、ぼくはちょっとドキドキするよ。」
何しろ、もう長いこと群に戻っていなかったのだ。
どんな顔をして、どんな風に言えばいいのかわからない。
心拍がだんだんドキドキと早くなってきた。
そわそわと落ち着かない気分になってくる。
「プーレ、どうしたのぉ?」
「なんだか落ちつかないっていうかなんていうか……変な気分なんだ。」
エルンに聞かれても、気持ちはなかなかうまく説明できない。
群の仲間に会いたいような、会いたくないような。
何ともいえない複雑な気持ちであることは確かなのだが。
“まー、会えば何とかなるって。”
「そんなものなのかなぁ?」
「エメラルドの言うことじゃ、あんま当てになんないけどネ。」
首をひねるプーレの横で、さりげなくパササが毒を吐いた。
“あ、酷い。石差別だ。”
「ふだんお前がろくなことしか言わないからだよーダ!」
口を尖らせるエメラルドに、いつもの仕返しとばかりにパササが言い放った。
これは言われても仕方がないので、
パササに同意はしてもエメラルドに同情する気にはなれない。
「あ、あそこに居るのチョコボだよな?」
「あ、ホントだ!プーレ、あの人達―??」
「う、うん!まちがいないよ!」
アルセスとパササが教える方向に居るのは、間違いなく見覚えのある姿だった。
だが、土壇場に来て、その方向に駆け寄ることをためらう。
やはり、どんな顔で出て行けばいいのかわからない。
二の足を踏んでいると、ぽんとアルセスが肩を叩いた。
「大丈夫だって。ほら、行ってみようぜ。な?」
「そうそう〜、だいじょうぶだよぉ〜♪」
「でも……。」
せっかく2人が励ましてくれているというのに、
プーレはまだ踏ん切りがつかなかった。
すると、パササがぽんと両肩を叩いてくる。
「細かいことは気にしなイー☆」
あっけらかんと言った彼は、無責任というか能天気というか。
結局3人から言われてしまっては、プーレも二の足がどうといっていられない。
勇気を出して、ちゃんと顔を見せなければだめだ。
長く居なかったから、確かに反応が予測つかないところがあるが、
3人が大丈夫といってくれたので、ここは思い切って信じてみることにした。
一歩一歩、ゆっくりとだが、茂みの向こうに立っている群の仲間に近づく。
こっちが先に声をかけるか、あっちが先に気がつくか。
それを考えるだけでも更に緊張する。
(ガンバレー!)
パササが小声で応援までしてくれた。
ちょっと恥ずかしい気分にもなってきたが、
彼は別にからかってるわけではないので空笑いで済ませる。
そして、距離が10mくらいになった時。
群のチョコボが気づいて、先にプーレたちに声をかけてきた。
「(あれ、このにおいは……プーレ!プーレなのか?!)」
「う、うん!そうだよ、パットルお兄さん!」
いきなり大声で呼ばれて、プーレはちょっと及び腰だが、
それでもはっきりうなずいてちゃんと答えた。
ちょっと心の準備が足りなかったかもしれないが、その割には上出来だろう。
パタパタ走って、プーレはパットルと呼んだチョコボに駆け寄った。
「(びっくりしたよ!
ずっと帰ってこなかったと思ったら、なんていうか……うん。)」
何を言ってるのか自分でもよく分かっていなさそうなことを言って、
パットルは駆け寄ってきたプーレを迎えた。
だが、思い出したように首をぱっと上げて、プーレにこう提案してきた。
「(そうだ!みんなに会っていきなよ。
きっとお前を可愛がってたおばさんとかも喜ぶぞ!)」
「え?え?」
「よかったなー!みんな待ってるみたいじゃないか?」
急に話を進められてまごつくプーレの後ろで、
アルセスが自分のことのように喜んで笑っている。
実はほんのちょっとだけ、
このチョコボがちゃんと迎えてくれるのか心配だったのかもしれない。
「レッツゴー☆」
勢いに乗ってパササまで、こぶしを振り上げてガッツポーズを決めている。
ちょっと戸惑っているプーレをよそに、行く気満々のようだ。
最初から乗り気だっただけのことはある。
あちらから誘ってくれるのなら、これ幸いといわんばかりだ。
「プーレ〜、行くよねぇ?」
「も、もちろん!」
のほほんとした調子でエルンに聞かれて、
プーレは意味もなく力をこめて答えてしまった。


そういうわけで、パットルに招かれた一行は、
プーレの仲間達が巣を構える場所にやってきた。
チョコボの森の例に漏れず、あちらこちらに黄色い羽の持ち主がたくさん居る。
中には白や黒の羽の持ち主も見受けられて、何ともカラフルだ。
「(おーいみんな〜、プーレが帰ってきたよー!)」
パットルが、仲間達に向かって声を張り上げる。
すると、それまで皆思い思いに過ごしていたはずの群のチョコボ達が、一斉にこちらに振り返った。
『(えーっ?!)』
『(今なんて言ったー?!)』
クエクエと鳴き声の大合唱が、さながら洪水のようにどばっと耳になだれ込む。
今までこんな光景に出くわしたことはないので、
プーレも含めて全員びっくりだ。
小さな仲間の帰還に沸いて、わらわら寄って来る。
「(お友達も一緒なんて、嬉しいね〜。)」
「(ねぇー、おもてなししなくっちゃ!)」
「わわっ!」
プーレ達を囲んで、なにやら大歓迎の構えである。
と、囲むチョコボ達をかき分けて、プーレの前に出てきた1羽のメスチョコボがいた。
その姿を見たプーレははっと息を呑む。
「(プーレ!まぁ……こんな姿になっちゃって。)」
「おばさん!」
「(無事でよかったよ。もう、本当にこの子は心配させて!)」
勢いで抱きついてきたプーレを、
彼女は羽を広げて上から隠すように覆った。
チョコボなりに、抱擁に答えたという格好だ。
“感動の再会ってやつー?”
いいよなと呟いて、エメラルドは傍観を決め込んだ。
ルビーは彼のノリがちょっと気に食わないようだが、
今回はいちいち咎めなかった。
「プーレのおばさんってことは、お父さんかお母さんの兄弟なノ?」
「うん。お母さんのお姉ちゃんなんだ!」
と、いう事は年が上の方の伯母というわけだ。
プーレは両親を早くに亡くしたと言っていたが、親類は別にちゃんといたのである。
「(あなたはええっと……。
見たことがない種族みたいだけど、坊やはどこからきたの?)」
「グレイシャー島ダヨー!」
パサラを知らないプーレの伯母に、パササは即答した。
「ここのチョコボって、そこ知ってるのか?」
「さぁ〜?」
いくらチョコボが情報通で有名でも、
グレイシャー島はそんなに知名度が高いものなのだろうか。
アルセスは場所の説明をちっともしなかったパササに聞くが、
当人はけろっとしている。
「(グレイシャー島って言ったら、トロイアの沖の超寒い島だろ?
オレたちチョコボの情報力を侮るなよ?)」
横から話に割り込んできたオスチョコボが、得意げにウインクまで決めた。
さりげない知識自慢を、エルンは嫌味っぽいと曲解することもなくただびっくりだ。
「えっ、知ってるのぉ〜?!」
「(うん。聞いたことしかないけどな。)」
聞いたことしかないとは言うが、聞いたことがあるだけでもかなりの情報通だろう。
伊達に、情報通の種族と言われているわけではないということか。
これにはエルンもびっくりした。
アルセスに至っては、舌を巻く思いである。
田舎育ちとはいえ、チョコボに負けてちょっと悔しいくらいかもしれない。
「(さあ、疲れたでしょ。
あなたの家は、寝床をちゃんとすればいつでも使えるからね。)」
「え、ほんとに?!」
思いがけない吉報に、プーレは目を真ん丸くした。
伯母さんはそうだよとうなずいて、にっこり笑う。
「(あなたがいつ帰ってきてもいいように、頼んで空けておいてもらってたのよ。)」
「うわー、おばさんやさしいネ!!」
行きがけにはプーレのちょっとネガティブな意見を聞いていたせいもあってか、
パササは手放しに感動している。
さすがに寝藁まではすぐに使えないのだが、そんなものはすでに減点対象ですらない。
「じゃあ、さっそく取りに行ってこなくちゃ!」
「(いいよいいよ。プーレちゃんは疲れてるでしょ?
おばさんがちゃーんとメイクしといてあげるから、おばさんの巣で休んでなさい。)」
取りに走ろうとしたプーレに待ったをかけて、
伯母さんは足取り軽く走っていってしまった。
「あ、いっちゃったぁ〜。速いねぇ〜。」
ちょっと年は行っているが、人間で言えばまだまだ働き盛り。
脚力もスピードも、若いチョコボとそん色ない。
小走り程度でも、人間よりずっと早いのだ。
「おばさん、わかいころは群で一番足が速かったんだって。」
“それも納得できるな。”
プーレの解説に、ルビーが感心しつつ同意する。
ルビーの目から見ても、彼女の足は速そうに見えたに違いない。
「ところで、おばさんの巣ってドコ?」
「えーっとね、あっちの奥。」
「あっちかー。結構はじっこなんだな。」
プーレが示した方向は、チョコボ達のコロニーの端の方だ。
中心からはちょっと離れているが、
元々やや散らばり気味で巣の密度が高くないので、大して気にするほどでもない。
「うん、そうだよ。ぼくの巣もすぐそばにあるんだ。」
プーレの巣も、実はそのすぐそばにある。
近所で親戚というのなら、かなり可愛がられていたことは簡単に想像がつく。
傍目にはどこも似たような巣をちゃんと見分けて、
プーレは仲間を自分の伯母の巣に案内した。
「てきとうなところに座ってようよ。」
チョコボの巣は結構大きい。
伯母さんには今は留守の夫もいるので、子供3人とアルセス1人が座る余裕がちゃんとある。
「じゃあ、お邪魔しまーす。」
主はいないものの、一応声をかけてからアルセスが座る。
「じゃあボクここー♪」
「あたしはとなりぃ〜。」
パササが位置を決めるとエルンも決まる。
相変わらず仲がいいなと、入って日の浅いアルセスも思った。
ちょっとすると、退屈しのぎにじゃれ始めた。なんだか傍目にも楽しそうだ。
「ねーねー、プーレもしりとりヤロー☆」
「うん、いいよ。」
伯母さんが帰ってくるまでは結構かかると分かっているらしく、
パササの誘いに応じて彼も暇つぶしに興じる。
“プーレの巣って、あれかー?”
“あれだろうな。1ヶ所だけ荒れ気味だ。”
エメラルドが言っている巣は、今居る巣の本当にすぐそばだ。
巣のスペースを示しているらしい古い寝藁などは残っているが、
とてもすぐには使えそうにない。
必要な草の量は結構になりそうなので、たぶん仕度にはそこそこ時間がかかるだろう。
客としてのんびり待つのが得策に違いない。


―2時間後―
「(おまたせっ、さあ出来たよ!)」
『ありがとー!』
草を運んでせっせと伯母さんがこしらえた寝床は、
とても寝心地が良さそうな見事な仕上がりとなっている。
すぐにでも寝てしまいたくなりそうだった。
「うっわ〜……寝心地良さそうだ。」
アルセスは草の寝床で寝た経験はないはずだが、伯母さんの力作は魅力的に映るようだ。
さすがの腕前というべきだろうか。巣作りのベテランである。
“上に乗って弾めるよな。”
“……お前は無理だろう。”
ドサクサ紛れにお約束のボケをかましたエメラルドに、
今日はパササではなくルビーがつっこみを入れた。
とにかく寝床の準備もできたところで、泊まる家の準備は万端だ。
プーレにとっては、何もかも久しぶりのはずの故郷。
できれば、パーティそろってのんびり羽を伸ばしていきたいところだ。



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一部チョコぼまみれでお届けです。
ようやくプーレは一時帰郷いたしました。
次の話はどうなるかさっぱり決めてませんが(え
できれば少しくらいはのんびりさせたいところです。
少なくとも次の目的地を決めるまでは、群での様子を書きたいですね。